学術大会発表の実績一覧へ戻る


<まだかなドットjp>いつでも、どこでも待合室!

『第38回日本薬剤師会学術大会ポスター発表』 『都薬雑誌 2007年4月号積載』

 患者様にとって、医療機関での待ち時間は大きな問題です。
 混んでいる待合室で長時間待つことは、体調の悪い中で貴重な時間が奪われ、感染症をもらうことなども気になります。小さい子どもがいればぐずったり騒ぎだしたりと親子で大変な思いをします。
 みなみ野薬局では、このような待ち時間の環境改善策として、患者様が携帯電話のインターネットを利用して、どこからでも調剤状況を確認できるシステム『まだかなドットjp(madakana.jp)』を構築しました。
 キャッチフレーズは、「いつでも、どこでも待合室!」。その内容についてご紹介いたします。

システム構築まで


 背景

 当薬局は、八王子市ニュータウンの総合クリニックビル内にある調剤薬局で、常時、内科・小児科・外科・整形外科・耳鼻科・皮膚科・眼科・歯科・婦人科・糖尿病科などの複数診療科の処方せんを受け付けています。現在スタッフは薬剤師10名、アシスタント5名、処方せん受付枚数は月平均約6,000枚、小児から老人まであらゆる年代の患者様が来局されています。
 時間帯や季節によって混雑が激しくなること、また受付処方せん枚数に比べ、待合室が狭いことなどが悩みでした。
 さて、「混雑」と「長い待ち時間」に対する改善策を考える場合、「スペース拡大」と「時間短縮」という捉え方に限定してしまいがちです。しかし、それには『改築・スタッフ増員・調剤機器導入・作業のスピード促進・窓口応対の時間短縮』などといった対策が必要となり、経費やリスクの増大、サービスの低下といった課題を合わせ持つ可能性が大きくなります。


 弱点からの発想

 そこで、もう少しこの問題を幅広く捉え、目標を「患者様の待ち時間の環境改善」として、現状を改善する方法はないかと考えてみました。

 みなみ野薬局の弱点は、
 『特定の時間帯における処方せんの集中』
 『スペースの狭さ』
 です。しかしこれが、「(同施設の入る)クリニックビル内のゆとりある環境」、 「近隣商業地区の便の良さ」という特徴へと、目を向けさせてくれました。
 患者様が薬局外でも便利に待てるようにしてはどうだろうか。 ここから「いつでも どこでも待合室!」という発想が生まれました。 それがこのケイタイサービス「まだかなドットjp」システム作りの始まりです。


▲ページトップへ

システムの概要

 患者様は手持ちの携帯電話などを利用し、インターネットを使って、そのサイトへアクセスすることで、調剤完了か否かを確認できる形式です(図1)。部外者の操作ができないようにするセキュリティ対策や、薬局内のインターネット接続に問題が出た場合にスタッフの携帯電話から停止・再開が行えるようにすることなど、患者様が安心して使えるよう、注意を払いました。


期待できる効果

 患者様の「総待ち時間」に変わりがないにもかかわらず、「薬局内待ち時間」を減らすという方法で、以下のような効果が実現できることが、この企画のポイントです。

  • 患者様が外出しやすくなり、待ち時間が自由な時間に変わることで、ストレスの軽減につながる。
  • 薬局内の混雑回避がはかられ、待合室で待つことを選んだ人にとっても空間的余裕や待ち時間短縮などの環境改善がなされる。
  • 入り口から見える「混雑しているイメージ」を減らすことによって、処方せんが他薬局へ流れることが防げる。
  • 薬局の本来業務である「窓口カウンセリング」の時間確保、薬局イメージにダイレクトに影響する「スタッフ対応(丁寧さ、相談しやすさなど)」の充実が、これによってサポートされる。

 加えて、システム構築を自作で行ったことにより、低コスト、かつ現場に即した形でサービスを実施できることも特徴です。


▲ページトップへ

実際の操作方法

1.患者様から外出の申し出があった場合、番号とアドレスの入ったフダをお渡しする(図2 )。

2.薬局では調剤が完了した時点で、サーバーに接続された端末から管理画面にフダの番号を入力(図3 )。

3.患者様は、携帯・PHSより、随時そのサイトへアクセスし確認(図4 )。
→操作2が完了していれば、「お薬の準備はできています。〜」、未完了の場合は「もうしばらくお待ちください。〜」と表示される。


▲ページトップへ

費用

患者様:利用料無料,通信料のみ
薬局側:サーバーレンタル料約400円/月
ドメイン維持費約300円/月


▲ページトップへ

実績

スタートした2006年2月18日から2007年2月17日までの1年間で、アクセス総件数は682件でした。


▲ページトップへ

効果の検証

 2006年2月下旬にスタートしたこのサービス。狙った効果が実際に得られているか、同年6月に実施した「患者様アンケート」(518件)で、検証を行いました。
 アンケート結果より、実際にケイタイサービスを利用したことのある方は、94%が「便利だった」との回答でした。
 さて、患者様の待ち時間と薬局に対する印象には、はっきりとした負の相関関係が見られました(図5 )。そこで、「待ち時間がとても長い」と感じていた患者様のグループを抽出し、「携帯サービスを知っていること」と「薬局に対する印象」には関係があるかどうかを調べてみました。すると、「携帯サービスを知っている」と回答したグループは、「知らない」と回答したグループに比べて、明らかに「薬局に対する印象が向上している」ことが認められました(図6)。
 待ち時間が長いと感じていても、「ケイタイサービス」を知っていれば(実際に使用しなくても)、薬局に対するイメージが良くなっていることがアンケートから確認できました。これは、薬ができるまで自分の好きな所を待合室にできるという「選択肢が増えたこと」が、ストレス軽減につながったと考えられます。
 これらの結果より、ケイタイサービスは患者様の待ち時間環境改善の有効な一つの手段となり得ることが確認できました。

 


▲ページトップへ

今後の課題

 患者様アンケートから、このサービスを「知っている」と回答した割合が29%と、認知度が低いことが一番の課題としてあげられました。
 そこで、どのような層に重点的にアピールしたらよいかを再びアンケートから探ってみたところ、次のような結果が得られました。
 まず性別では男性より女性の方が、年代では10代・20代といった若い層よりも30代以上の層で、期待度・利用度が高くなっていることがわかりました。また、60代以上でも、期待度・利用度の割合は低くなく、「携帯電話でインターネットを使うのは若者」というイメージが覆されました。
 これらより「子連れや、忙しい主婦層に期待度の高いサービス」というイメージが浮かびあがり、今後、このような結果を意識しながら薬局内ポスターやパンフレット配布などでアピールを続けていく予定です。
 もうひとつの課題は、患者様のケイタイに「もうしばらくお待ちください。」という表示が出た場合に、まだ「あとどのくらい待てばよいのか」という情報が提供できないことです。今後、受け付け連番の発行が可能になれば、「あと何人待ちか」のお知らせが可能になり、さらなる待ち時間環境改善へつなげられると考えています。


▲ページトップへ

最後に

 患者様の「待ち時間環境改善」の取り組みとして、このケイタイサービスについて述べてきました。
 ここで、もうひとつの視点である「窓口相談業務の充実」のためのサービス、という目的についても述べておきたいと思います。
 窓口相談業務は、今後益々、薬剤師の職能を最も発揮し得る重要な業務として位置づけられていくことと思われます。混雑時の対応において、そのメリットを充分享受できないまま患者様にお帰りいただくことは、患者様だけでなく、近隣に多くの薬局を有し競合している当薬局にとってもデメリットとなります。
 一時的な処方せんの集中を分散させることが、患者様・薬局双方の利益にかなうことから、このサービスは「窓口相談業務のサポート」としても位置づけられると考えています。

 今後も患者様中心のサービス向上を目指し、ケイタイサービスを含めた多面的な改善を検討していこうと思っております。

                                          『都薬雑誌 2007年4月号積載記事引用』


▲ページトップへ


学術大会発表の実績一覧へ戻る